ラノブンピック2020

川д川いらっしゃいませ、のようです

43 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:09:54 ID:Rzr0ynBAO


こんな話を知っているだろうか?

この町の裏山には、人を食うという魔女が住んでいるという。
人気の無い山の奥でひっそりと暮らしながら、山に入ってきた人間を襲って食ってしまうのだ。

腰まで伸びた長い黒髪は艶やかで、女であっても目を引かれることだろう。
真水のような透き通った声は、子供の警戒心など溶かしてしまうだろう。

魔女に会ったら、決して目を合わせてはいけない。
奴の魔眼に魅いられたら最期、お前は悲惨な死を遂げるだろう。
魔女の呼び掛けには、決して応じてはいけない。
山に立ち入った人間には、魔女はこう語り掛ける。


いらっしゃいませ―――と





          川д川いらっしゃいませ、のようです





.

44 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:10:31 ID:Rzr0ynBAO

川;д;川「―――って、こんな話が人里で広まってるのよぉぉぉぉぉぉ!!」


山の中にぽつんと立つ家に、女の叫びが響く。
彼女こそが町で噂になっている魔女、貞子だ。
大きめの長机に顔を突っ伏したまま子供のように泣きじゃくる彼女には、噂のような恐ろしさは微塵も感じられない。

そんな貞子の対面にちょこんと座っていた黒猫は、興味無さそうに貞子を一瞥すると、その場に丸まった。


川;д;川「確かに魅了の魔法は使えるけど!やろうと思えば目を合わせただけで私の操り人形に出来ちゃうけど!!」

( ФωФ)「……間違っては無いではないか」


鬱陶しそうに尻尾をパタパタとさせながら、黒猫が答える。
彼の名はロマネスク。
一見普通の猫に見えるが、魔女の……貞子の使い魔だ。


川;д;川「食べないもん!私は人を食べたりしないもん!むしろ食べて欲しい側だもん!!」



川;д;川「せっかく食堂を作ったのに、変な噂のせいで誰も来てくれないんだもの……!!」

46 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:11:52 ID:Rzr0ynBAO

さてこの魔女の家。
魔女が一人で暮らすには少々大きすぎる。
大きな本棚には魔術書はほんの少ししかなく、それ以外は古今東西の料理本で埋め尽くされている。

魔女の象徴でもある大きな釜では、山で取れたキノコや山菜、小動物の肉が煮込まれて、食欲をそそる香りを出している。
そして今貞子が突っ伏している大きな長机には計16の椅子が備え付けてあり、同じものが黒猫の後ろにあと二つあった。

これが魔女の家の正体、通称『山村軒』だ。
……とは言うものの、その名で呼ぶのは貞子一人だが。


( ФωФ)「そもそも、そのような噂がたったのもお主自身のせいではないか?」

川;д;川「人は食べないもん……」

( ФωФ)「その見た目ではそう思われても仕方あるまい」

川;д;川「この髪は魔力の塊だから!気軽に切れるものじゃないってあなたも知ってるでしょう……!」


そう言って貞子が顔を上げるが、長すぎる髪は依然机の上でざんばらに広がったままだった。
髪は女の命というが、こと魔女においてはその影響は大きい。
魔女として生きていく上で必要不可欠な魔力をその髪に蓄えているからだ。

47 名前:名無しさん[] 投稿日:2020/02/15(土) 23:12:45 ID:Rzr0ynBAO

( ФωФ)「だが、それ以外にも……」

川ぅд川「っ!ちょっと待って!」


ロマネスクの言葉を遮り、貞子が立ち上がる。
そしていそいそと部屋の隅にある怪しげな一角へと移動した。

そこには水晶玉や蝋燭、魔術書に魔方陣の描かれた巻物と、魔女らしい不気味なアイテムが乱雑に積み上げられている。
ロマネスクは貞子の後ろ姿を呆れ顔で眺めながら、不機嫌そうに尻尾をゆらゆらと揺らしていた。


川*д川「ふふふ……。人が来たわ。そうよね、秋だから山にはいろいろな食糧があるのだもの」


貞子がぶつぶつと何かを呟くと、水晶玉に人の姿が映し出される。
ガタイのいい男が3人。
周囲を警戒しながら草を掻き分け、山に入ってきているところだった。


川*д川「ふふ……いらっしゃいませぇ……」


貞子は優しく、艶を感じさせる声でそう水晶玉に語り掛ける。
すると、男達は皆一様に慌てだし、猟銃をあちこちへと向けだした。

48 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:13:21 ID:Rzr0ynBAO

それもそうだ。
貞子は水晶玉越しに語り掛けているが、男達からしてみれば何もない虚空から女の声が聞こえてきたのだから。


川д川「怖がらなくても大丈夫よ……さぁ、ここまでいらっしゃい……」


男達の警戒は解けない。
そのうち、一番後方にいた男が半狂乱になって逃げ出し、それに釣られるようにして他の男達も逃げ出した。


川;д川「あ……!待って!栗ごはん!栗ごはんはどう!?待ってってば!ザクロもあるから!ザクロもあるからぁぁぁぁぁぁ!!」


貞子の懇願も虚しく、男達は我先にと山を下り、水晶玉に映らなくなった。
肩を落とす貞子の背中に、ロマネスクの冷たい視線が刺さる。
ほれみたことか言いたげに鼻を鳴らすと、大きなあくびを一つして、その体を起こした。


( ФωФ)「……お主は阿呆なのか?」

川д川「……ぐすん」


貞子は半泣きになりながらロマネスクを睨み返すが、ロマネスクはどこ吹く風だ。
長机から飛び降りて、とてとてと貞子の方へと歩み寄り、言葉を続ける。

49 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:14:18 ID:Rzr0ynBAO

( ФωФ)「奴らは魔女も魔法も知らぬただの人間だぞ。そんな奴らに魔法を使えば恐れるに決まっておろう」

川д川「だってぇ……」

( ФωФ)「甘えたような声を出すな気色悪い。人が来ただけではしゃぐなと言っておるのだ」


ロマネスクにばっさりと切り捨てられ、貞子は口をつぐんだ。
嗚咽は漏らさないが、顔を覆う長い黒髪の向こうからすんすんと鼻を鳴らす音は聞こえてくる。

ロマネスクはこれみよがしに大きなため息をつくと、貞子の足下に前足を揃えて座り、貞子に向き直った。


( ФωФ)「そもそも、何故食堂に拘る。別に人との干渉はなくとも生きて行けるではないか」

川д川「だって……淋しいから……」

( ФωФ)「話相手なら我輩がいるであろう」

川;д;川「そんなの淋しい女じゃない!独り暮らしで猫と話して生きていくだけなんて惨めじゃない!!」


貞子の言葉にロマネスクは何も返さない。
ただ、尻尾だけは苛立たしげにパタパタと揺れていた。

50 名前:名無しさん[] 投稿日:2020/02/15(土) 23:14:47 ID:Rzr0ynBAO

川;д;川「恋人が欲しいとか、子供が欲しいとかじゃないの……ただ私の作ったご飯を食べて、一時でもここで安らいでくれれば……」

( +ω+)「面倒くさい女だな……」


ため息を一つ。
ロマネスクが後ろ足で首を掻く。


( ФωФ)「ともかく、本当に客が欲しいのなら無闇に魔法を使うな。変な噂が増えるだけだ」

川д川「……うん」

( ФωФ)「それより腹が減った。食事にしよう」

川д川「はいはい……。今用意するから少し待っててね」


料理を作るために移動する貞子の後ろをロマネスクがついていく。
尻尾をピンと立てて、心なしか軽い足取りで。


( ФωФ)「……料理は確かに上手いのだがな」


そんな呟きは、貞子には聞こえなかった。

51 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:15:30 ID:Rzr0ynBAO

( ФωФ)「……さて、どうすれば人間がここに来るか、だが」

川д川「うん」


食事のあと、食堂をやっていくにはどうすればいいかについての話し合いが始まった。
貞子は椅子に腰をかけ、背筋を伸ばして長机の上に座るロマネスクを見つめている

ロマネスクは貞子の使い魔で、貞子の方が立場は上のはずだが、端から見たらそうは思えないだろう。


( ФωФ)「人が山に来ないのは噂が原因なのだな」

川д川「そうだと思う……私は人を食べたりしないのに」

( ФωФ)「人間から生気を奪い魔力にすることもできるが……まぁお主には必要ないか」


そう言ってロマネスクは貞子の長い黒髪を一瞥した。
髪の長さが魔力の多さに直結するならば、少なくとも貞子はわざわざ普通の人間から魔力を得るまでもないことがわかる。


( +ω+)(食堂を作ることに固執していたからな……魔力を消費する機会も少なかったろう)

52 名前:名無しさん[] 投稿日:2020/02/15(土) 23:16:22 ID:Rzr0ynBAO

( ФωФ)「……人が来ないのが噂のせいならば、逆にそれを利用するのもありだな」

川д川「利用……?どうするの?」

( ФωФ)「……少しは考えろ。ここが安全で、かつ美味い料理にありつけると噂になれば、自然と人が集まることになるだろう」


川*ヮ川「……なるほど!悪い噂じゃなくていい噂が流れるようにするのね!」


貞子は両手を合わせて楽しそうな声を出す。
すでにそんな未来を夢想しているのか、髪のせいで表情はよく見えなくても、幸せそうにしているのがよくわかった。


( ФωФ)「うむ。そのためにも魔法を使って人に干渉するのは禁止だ。理由はさっき言った通りだ」

川д川「……えぇ。また変な噂が増えたら困るわ」

( ФωФ)「水晶で視るくらいならいいが、声をかけたりするのはダメだぞ」

川д川「わかったわ

53 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:17:21 ID:Rzr0ynBAO

( ФωФ)「……ともかく、一人目だ」

川д川「一人目?」


またも聞き返す貞子にロマネスクは冷たい視線を送る。
食堂を作りたいと言い出したくせに、具体的な内容は考えていなかったのだろう。

文句を言いたいところもあるが、ロマネスクは貞子の使い魔。
ならば、主人の足りない部分を補うのは自分の仕事だろう。
そう思い、ロマネスクは小さなため息と共に説明を続けた。


( ФωФ)「まだ人里では悪い噂が立っているのだろう?となれば、『一人目の客』をどうやってここに来させるかが問題だ」

川;д川「う……」


現実問題として、それが困難だということは貞子にも理解できたようだ。
山へ立ち入らないように言われている中で、恐怖の象徴とされる魔女の家に誰が好き好んで来るのだろうか。


( ФωФ)「……気の長い話になるかもしれんが、一人目さえなんとかなればあとは簡単だ」

54 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:18:10 ID:Rzr0ynBAO

( +ω+)「人間というのは好奇心が強い生き物だ。一人が魔女の家で美味い料理を食わせてもらったと聞けば、
      ほとんどの人間がそれを疑っても、中にはそれが真実かどうか試そうとする者が出てくる」

( ФωФ)「そしてその者達を普通にもてなし、帰してやれば他の連中もその話が真実では無いかと思うようになる」


( ФωФ)「……そこまで行けば、皆が普通にここを……『山村軒』を利用することになるだろう」

川*д川「おぉ……!おおぉ……!」


貞子は興奮した様子で、前のめりになりながらロマネスクの話を聞いていた。
確かに一人目の客がここを訪れるのは難しい。
しかし、それをどうにかクリアすれば、自分が夢見てきたことが実現できるかもしれないのだ。


( ФωФ)「人の噂も七十五日という言葉があると聞く。今は恐れられていても、いつか普通に山に入り、ここへ迷いこんでくる者も現れるだろう」

川*д川「うん……!うん……!!」

( ФωФ)「それまでは……そうだな。客人をもてなすための練習でもしたらどうだ?」

川*д川「接客の練習……!うん!私、頑張るわ……!」

56 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:19:19 ID:Rzr0ynBAO

……そうしてやる気になった貞子がロマネスクの指導のもと接客の練習を始めたのが昼過ぎ。
魔女の家……山村軒にやってくる人間が現れるのはまだ先のことだろうと、ロマネスクも貞子も思っていた。

しかしそれと時を同じくして、二人の予想に反し、その一人目の客となるかもしれない人間が山の入口に立っていた。

  _
( ゚∀゚)「……この山に、魔女がいるのか」


その人間の名はジョルジュ。
生まれてすぐに両親を無くし、町の施設で育った青年だ。

彼は町でもかなりの有名人だった。
ただ……

  _
( ゚∀゚)「……おっぱい大きいといいなぁ」


悪い意味で、だが。

57 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:20:09 ID:Rzr0ynBAO

ジョルジュは愛に飢えていた。
そんな彼が、女性の女性らしい部位に惹かれるのは仕方のないことだろう。

……だからと言って町の女性の胸を手当たり次第に触りに行くのは大間違いであるが。


その結果、当然と言えば当然だが、ジョルジュは町の人間から嫌われ、通りを歩けば石を投げられ、唾をはきかけられる日々を送っていた。
ジョルジュにしてみれば、その程度のことは問題ではなかった。
問題なのは……

  _
(;゚∀゚)「ぅぐっ……き、禁断症状が……!早く……おっぱいを……」


『おっぱいを揉めない』
ジョルジュにとってはそれは死ぬよりも辛いことだったのだ。

町の女の胸を揉むことは不可能に近い。
しかし魔女ならば、自分のことを知らない魔女ならばワンチャン揉めるんじゃないかとジョルジュは考えた。

噂を聞く限り、魔女は危険な存在ではあるが、かなり美人のようだ
そんな人の胸を揉めるのならば、例えそれで死ぬことになろうとも本望だと。
そう考えてしまうほどに彼は追い詰められていたのだ。

58 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:20:49 ID:Rzr0ynBAO
  _
( ゚∀゚)「乳上死は男のロマン……!例え殺されることになっても、死に際におっぱいに顔を埋めてやるぜぇぇぇ!!!」


ジョルジュの決意の咆哮に、鳥達が驚いて飛び立つ。
そしてジョルジュは性欲に促されるがまま、山の中へと入っていくのだった。



一方、山村軒ではどうなっているか。
ジョルジュが山に入ったことは、普段の貞子なら察知できたろう。
しかし、間が悪かった。


川;ヮ川「い、いらっしゃいませぇ……」

( ФωФ)「声が小さいぞ。あと、笑顔がかたい。……というかよく見えん」

川;д川「あぅ……」


ずっと山で一人で暮らしていた貞子にとって、接客というのはかなりハードルの高いものだった。
笑顔を作り、ハキハキとした声であいさつするなんて貞子にできるわけがないのだ。
ジョルジュの侵入に気づかなかったのは、そんな慣れないことをしていからだろう。

59 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:21:31 ID:Rzr0ynBAO

川∀川「いらっしゃいませぇ……」

(;ФωФ)(こわ……)


そうとも知らず、貞子は練習を続ける。
山村軒に人々が集まる未来を願って。


( ФωФ)「……ふぅむ。とりあえず、あいさつの時は顔を出してみたらどうだ?」

川д川「……うーん。じゃあ、髪をまとめるものを用意しないと」


( ФωФ)「……む?」

川д川「あら?どうし……」


先に気づいたのはロマネスクだった。
ロマネスクには山に侵入した人間を検知するほどの力はないが、代わりに普通の猫よりも強い聴力を持っている。
故に、遠くの人間の足音を聞き取ることができたのだ。

60 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:22:03 ID:Rzr0ynBAO

川;д川「えっ?また誰か来たの?」


そしてロマネスクより少し遅れて貞子も気づいた。
本来ならばとっくに気づいていたことだ。
ロマネスクの反応を見たことで、少し興奮が冷めたのだろう。

慌てて水晶玉で確認をしにいく。
ロマネスクも貞子の肩にのり水晶玉に映し出された人間を眺めていた。


( ФωФ)「ふむ……。昼に逃げ帰った連中の仲間か?」

川;д川「……わからないけど、こっちは」


言葉を切り、貞子は窓から外を確認する。
時刻は夕方。日が翳り始めた頃合い。

そして人間……ジョルジュが進んでいる方向の先にはほぼ崖になっている急斜面がある。
もし日が落ち、視界の悪い中でそのような場所に行ってしまったら……

61 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:22:41 ID:Rzr0ynBAO

川;д川「私!行ってくる!」

(;ФωФ)「あ、おい!」


貞子が駆け出し、肩に乗っていたロマネスクがバランスを崩して落下する。
さすがは猫といったところか、空中で体勢を立て直して綺麗に着地した。

が、その時にはすでに貞子は家を飛び出していた。


(;+ω+)「……まったく」


( ФωФ)「……人間は何故あのような優しい娘を恐れるのだろうな」


ふん、と鼻を鳴らしてロマネスクが溢す。
開け放たれたままの扉を眺めながらあくびを一つ。
そうしてその場で丸くなった。

62 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:23:31 ID:Rzr0ynBAO
  _
(;゚∀゚)「んー……どこだおっぱいの家……じゃなかった魔女の家」


がさがさと草を掻き分けながら、道なき道を歩く男が一人。
ジョルジュは山の中に魔女の家があるという情報しか持たずに来た結果、見当違いの方向へと進んでいた。

日も翳り始め、木々が光を遮るのも相まって、すでに辺りは薄暗い。
性欲だけでここまで来たジョルジュも、さすがに少しは恐怖心が芽生えているようだ。

  _
(;゚∀゚)「……もう少し探して見つからなかったら帰るか」


「ダメよ。その先は危ないわ」


ジョルジュが一人ごちて、さらに歩を進めたところで背後から声をかけられた。
真水のように澄んだ声は、踏み分けられる草木の音に掻き消されることなく、まっすぐにジョルジュの耳朶を打つ。


川д川「そっちは崖になってるの。さぁ、戻ってきて」


振り返らずとも、それが魔女の声だということは理解できた。

63 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:24:12 ID:Rzr0ynBAO

それまで性欲に抑えられていた恐怖心が首をもたげた。
声だけで、それが自分達とは全く違う存在だと言うことがわかってしまった。

……ただ、その恐怖心も性欲には勝てなかったようだ。

  _
(;゚∀゚)(怖ぇ……けど……せめておっぱいのサイズだけは……)

錆びた人形のように固い動きでジョルジュが振り返る。
まず目に入ったのはあまりにも長い長髪だった。
後ろ髪だけでなく、前髪も長く、顔をほとんど覆っている。


そのまま視線を下げれば、大きめのストールのようなものを首に巻いているのがわかる。
その下には黒い厚手のローブを着ているのが見て取れた。

ストールとローブの生地のせいで、ぱっと見では胸のサイズなどわからないだろう。

……しかし、ジョルジュは違った。

  _
( ゚∀゚)(F……いや、Gあるかもしれない……)

川;д川(なんか邪な視線を感じる……)

64 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:25:05 ID:Rzr0ynBAO

服の上からサイズに当たりをつけたジョルジュから恐怖心が薄れる。
同時に性欲がむくむくと沸き上がってきていた。

それでも貞子に襲い掛からなかったのは、魔女に対する恐怖心がまだあるからだろう。


川д川「えぇと……。とにかく、そっちはダメ。戻ってきて」
  _
( ゚∀゚)「あ、はい」


貞子の言葉に従い、ジョルジュが戻ってくる。
しかしその頭の中は、煩悩にまみれており、少なくとも正常な判断ができないであろう状態であった。

……一方の貞子は


川;д川(えぇっと、なんでこの人ここにいるんだろう……。……せっかくだし、ウチでご飯食べていってくれないかな?)

川д川(はっ……!そうよ。せっかく一人目のお客さんを確保出来るかもしれないのよ)

川;д川(あ……でもどうやって誘えば……)


彼女も彼女で、正常な判断が出来ない状態になっていた。

65 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:25:46 ID:Rzr0ynBAO

川;д川(で、でも……せっかくのチャンスなんだから……頑張らないと……!)


貞子が一度大きく息を吸う。
ジョルジュはそんな貞子を、片時も目を離さずにじっと見つめていた。

無論、胸の話である。


川д川「あの、もう暗くなるし……良ければウチに来ない?」
  _
( ゚∀゚)「あ、はい」


  _
( ゚∀゚)「……え?」

川*д川「そう。よかったわ。ついてきて」


胸に意識を奪われていたジョルジュは、貞子の言葉の意味を理解するよりも先に返事をした。
理解が追い付いた時には、すでに貞子はジョルジュに背を向けて歩き出していた。

故に聞き返すこともできず、ただ黙ってその後ろをついていくことしか出来ないのだった。

66 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:26:34 ID:Rzr0ynBAO

川д川「ここから少し歩くことになるけど、我慢してね」
  _
( ゚∀゚)「あ……はい」


魔女の家にお呼ばれする。
図らずも当初の目的を達成したジョルジュは混乱していた。

  _
( ゚∀゚)(若い男を家に呼ぶ……?これってまさか……)
  _
( ゚∀゚)(……ワンチャン、挟んで貰えるかもしれない)


未だ貞子の胸に魅了され、性欲が振り切れ気味であるジョルジュは、そんな結論を出す。
バカなのかと思わざるを得ないが、恐怖と性欲がせめぎ合う中、混乱する状況に陥ったが故の考えだろう。

……多分。


それから二人は無言で歩く。
空の赤は色を増し、西の空は少しずつ黒に染まって行った。

67 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:27:39 ID:Rzr0ynBAO

少し歩き、頭の中が落ち着いてきたジョルジュは貞子の背中をじっと見つめる。
魔女と呼ばれて恐れられているその女は、髪の長さ以外は町にいる女性となんら変わりない。

  _
( ゚∀゚)(なんだ……。魔女ってもっとヤバい奴だと思ってたけど案外普通じゃん。おっぱいはヤバいけど)
  _
( ゚∀゚)(つーか、暗いからって俺を心配して家に呼んでくれたんだよな……。普通にいい人じゃないか)


噂は所詮噂だったか、とジョルジュはそう考えた。
……が、ふと足を止める。

  _
( ゚∀゚)(……ちょっと待て。なんで俺は普通に魔女の家にお邪魔しようとしてるんだ?)


そんな疑問が頭を掠めた。
それはおっぱいのことで頭がいっぱいだったために半ば無意識の状況だったからだが、本人は気づかない。

  _
(;゚∀゚)(……そういや噂で、魔女の声は人の警戒心を解く効果があるって……)


貞子ならそれも可能ではあるだろうが、もちろん誤解である。
ただ、冷静になり性欲が薄くなった分、恐怖心がジョルジュの中を埋めつくしつつあった。
そのせいか、魔女に対する疑心が強くなり、今の自分の状況を魔女の仕業にするように考えてしまうのだ。

68 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:28:57 ID:Rzr0ynBAO

川д川「……?どうしたの?」


ジョルジュが足を止めたのに気づき、貞子が振り返る。
びくっ、とジョルジュが体を一瞬縮こまらせたのには気づかない。
貞子は貞子で、一番の問題だった一人目の客を、こんなに早く確保できたということで少し舞い上がっていたからだ。


川д川(あ……、そう言えば笑顔であいさつしなきゃいけないんだった)

川;д川(ちゃんと顔見せなきゃ……でも髪止め持ってないや。わざわざ手でかきあげるのも変だし、どうしよう……)


お互いに見つめあったまま固まる。
……いや、見つめあったとは言うが、視線を互いに向けあっているだけで、実際にはほとんど見えていないだろう。

ジョルジュは恐怖心から、貞子は浮わついた気持ちから、考え事で頭がいっぱいだったからだ。

  _
(;゚∀゚)(こっち見てる……よな……。つーか、確か、魔女と目を合わせたら……)

川д川(……仕方ない。魔法で風を喚んで髪を巻き上げよう)
  _
(;゚∀゚)(そういや……昼に森に行ったって連中、頭かち割られてザクロみたいにされるところだったとか騒いでたな……)

69 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:29:43 ID:Rzr0ynBAO

二人の間を、貞子が喚んだ風が吹き抜ける。
数枚の枯れ葉とともに、貞子の髪がふわりと持ち上がり、その瞳を顕にした。





川д゚川「いらっしゃいませ」


貞子は笑顔でそう言った……つもりだった。
初めての客、初めて会話する他人、自分の夢への第一歩。
そこから生まれる緊張は、数時間の付け焼き刃でどうにかなるわけもなく、
広角も上がらず、細めるはずだった瞳はさらに見開かれ、風のせいで中途半端に巻き上がった髪が影を生む。
その表情はまるで獲物を見つけた肉食獣のようなものだった。

  _
( ゚∀゚)


そんな貞子と目を合わせてしまったジョルジュは、石のように固まり、呼吸を忘れる。

そのまま、数秒。
貞子の喚んだ風が止んだ、そのタイミングだった。

70 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:30:50 ID:Rzr0ynBAO
     _
≡≡≡( ;∀;)「ああああああああああごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


川;д川「えっ!?ちょ……えぇっ!?」



恐怖心が限界に達したジョルジュは、その場から一目散に逃げ出した。
西の空へと日が落ちて、すっかり暗くなった森の中、貞子は一人ぽつんと残される。

伸ばした右手は何を掴むこともなく、ただ漫然とそこに向けられていた。

その手で掴み損なったのは、一人目の客か、それとも彼女の夢か。

貞子はそれからしばらく呆然としていたが、やがてとぼとぼと自分の家……山村軒へと歩き出す。
地面を見つめ、幽霊のようにふらふらと覚束ない足取りで。


( ФωФ)「……ひどい顔をしているな」


土や石ばかりだった視界の中に、黒い塊が入り込んできた。
見てはいなくとも、聞こえてはいたのだろう。
ロマネスクも何があったかはわかっているようだ。

71 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:32:30 ID:Rzr0ynBAO

川;д;川「うぅ……ロマァ……」

( ФωФ)「だから甘えた声を……まぁ、仕方ないか」


川;д;川「ダメって言われたのに……魔法使っちゃったから……」

( ФωФ)「泣くな。……そもそも一人目の客を招くのはもっと後の話だったろう。何も問題はない」

川;д;川「でもぉ……」

(;ФωФ)「えぇい泣くなと言っておるだろう!おい待て我輩の腹に顔を埋めるな!!我輩の毛で涙を拭くな!!」


貞子に抱きつかれ文句を言うが、ロマネスクは本気で逃げ出そうとはしなかった。
そうしてひとしきり泣いた後、一人と一匹は並んで家へと帰って行く。
まだまだお客のこない、山村軒へと。



なお、ジョルジュは無事に山を下ることが出来たが、今回のことがトラウマになったのか、女性の胸に異様な執着は見せなくなった。
むしろ胸の大きな女性には怯えるようになったという。
しかしそれからは普通に働き、真面目な青年としてかつての汚名を払拭するようになる。

そうして町では「魔女があのジョルジュを改心させた」という噂が立ち始め、一度魔女と話をしてみるべきではないか?との声も出てくるようになるのだが……

それはまた別のお話。

72 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/15(土) 23:33:28 ID:Rzr0ynBAO

そしてきっと、そのお話ではこう語られるだろう。


この町の裏山には、少し淋しがりやで、心優しい魔女が住んでいるという。
人気の無い山の奥で黒い猫と一緒にひっそりと暮らしながら、山に入ってきた人間を美味しい料理でもてなしてくれる。

腰まで伸びた長い黒髪は艶やかで、女であっても目を引かれることだろう。
真水のような透き通った声は、子供の警戒心など溶かしてしまうだろう。

魔女に会ったら、なるべく目を合わせてはいけない。
彼女は恥ずかしがり屋なので、きっと緊張してしまうだろう。
魔女の呼び掛けにも、決して慌ててはいけない。
山に立ち入った人間には、魔女はこう語り掛ける。


いらっしゃいませ―――と





      川*д川いらっしゃいませ!のようです   おわり

73 名前:名無しさん[] 投稿日:2020/02/15(土) 23:35:20 ID:Rzr0ynBAO
以上です
イラストは
>>36
http://imepic.jp/20200215/441850
を使用させていただきました!

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